教育心理学は、学習や教育について心理学的側面から研究することによって、教育の改善に寄与しようとする学問であると私は考えています。心理学は、人間および動物の精神的行動に関わる非常に広い学問ですが、教育心理学で扱うのは、特に次のような分野です。
発達‥‥‥乳幼児から児童期、青年期を経て成人にいたるまでの、知的あるいは情意的な発達の過程を研究します。最近は、「生涯発達」という言葉も盛んで、発達という概念で老人期までの人間の変化をとらえようとしています。
学習‥‥‥知識や技能の獲得のメカニズム、理解、推論、問題解決のプロセス、学習や教育の方法などを扱います。素材は学校の教科教育に関わるものばかりではなく、日常的な課題から実験室的な課題まで、広い範囲にわたって研究されています。
臨床‥‥‥性格や人間関係の問題で不適応感を抱いている人への面談、治療などを行なう「カウンセリング」についての分野です。人格発達、深層心理、精神的な障害などの理論を学び、しだいにカウンセラーとしての経験を積みながら、実践的に研究していきます。
測定、評価‥‥‥テストや質問紙の開発、教育効果の測定、統計的データ解析の技法などに関する分野です。数学やコンピュータを駆使して、基礎的な理論研究から応用研究まで広い範囲をカバーしています。
心理学全体に言えることですが、観察、実験、調査、データ解析などが多く、本を読んで思索にふけるというよりは、「手足を動かしながら研究する」タイプの学問だといえるでしょう。(もちろん、思索にふけることがまったく嫌いでは困ります。)
心理学に関心のある方は、文学部の心理学科と社会学科、教養学部教養学科の人間行動学分科などとの選択で迷っているかもしれません。基本的には、教育に興味があり、基礎研究と教育実践(学校教育に限定されるわけではありません)を結ぶような研究をしたいという人には、教育心理学科はおすすめです。実際には、卒論や大学院での研究として、認知心理学、社会心理学などの基礎的分野のテーマを選ぶ人もかなりいますから自由度はありますが、それぞれの教官の専門領域や学科のカリキュラム内容をよく調べることが大切です。
特に、心理学は、高校までの教科にはないので、どのような研究分野があるのか、どのような方法論で研究するのかがわからないことが多いようです。大きな書店で、ここ3、4年ほどの間に書かれた新しいテキストを覗いて見てください。また、特定のテーマについて啓蒙的に書かれた本が、その学問にはいるための大きなきっかけとなることがよくあります。フロイトやユングのほかにも、おもしろい心理学の本がたくさんあることがわかっていただけると思います。
先日本郷で行われた学科ガイダンスでは、「教育心理学科は、どんな雰囲気のところか」という質問がありました。学習・研究をするにしても、教官や大学院生も含めた学科の雰囲気というのは、確かに気になるところです。私自身、まだこの学科に赴任して1年もたっていないのですが、これほどうちとけた雰囲気をもつ学科はめずらしいのではないでしょうか。(と、自信を持っています。)年に2回の学科旅行には教官、院生をまじえて50人もが参加し、酒に、レクリエーションに興じます。一方では、ゼミや自主的な研究会も活発で、(本人にその気さえあれば)充実した学生生活を送れる機会に満ちていることは保証します。
教育という場を通して人間について考えてみたいという人には、ぜひ教育心理学科をすすめます。将来の職種にかかわらず、ここで学んだことは、皆さん自身が人間というものを考える上で、きっと新しい視点を与えることになるでしょう。